Erika Kobayashi, Delaine Le Bas, Hiraku Suzuki

形象 Keisho

Upcoming
Kyobashi
12 April (Sat) – 31 May (Sat), 2025
11:00 - 19:00 Closed on Sun, Mon and National Holidays

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オープニングレセプション:4月12日 17:00-19:00(Yutaka Kikutake Gallery Kyobashi)

 

目に見えないもの、語られて来なかった歴史や個人の記憶、感情を、多彩な媒体を通じて編み上げる小林エリカ。ロマ(※)をルーツに持ち、生と死、喪失や再生といったテーマを軸に、彼らの豊かな歴史や神話から着想した多領域の作品を展開するドレーヌ・ル・バ。「かく」(描く・書く)行為を「発掘」に重ね、時空間に線を見出す方法としてのドローイングという表現形式を探究し続ける鈴木ヒラク。見えにくいもの、隠されて来たもの、あるいは疎外されて来たもの ― それぞれの問題意識の追究を通じ、それらを掘り起こし、形を与え、世界との接地点を探る、三者三様の実践を巡るグループ展です。

 

小林エリカは、近年の写真作品より「わたしの手の中のプロメテウスの火」、「交霊 -娘と父-」、および自身の血を用いた最新作「わたしの血」を公開します。小林は入念なリサーチを通じ、見えないもの、語られて来なかった記憶や感情を掬い取り、多様なメディアを用いた表現を展開してきました。昨年出版された「女の子たち風船爆弾をつくる」(文藝春秋社、2024年)は、第78回毎日出版文化賞(文学・芸術部門)を受賞するなど、執筆においても高い評価を得ています。「私の手の中のプロメテウスの火」は、ウランの発見から原子爆弾の開発および原子力発電に至るまでの歴史に言及する作品です。つづく「交霊 -娘と父-」「わたしの血」のシリーズでも、いずれも自身の手を登場させながら人間の限りない欲望に言及します。

 

ドレーヌ・ル・バもまた、語られてこなかったロマ民族の文化や歴史、土地の記憶、またジェンダーに関する視点を軸に、多彩な表現を展開して来た作家です。刺繍、布へのペイント、切り貼りといった手芸的な手法から、絵画、彫刻、コスチューム制作を含むパフォーマンス、映像など多岐に渡る媒体を応用した実践は、しばしば彼女を取り巻く環境を没入的で巨大な作品空間へと変容させます。

本展では、「Exquisite Corpse」(2024年)と題されたオブジェをはじめ、「Spring」(2000年)、「Winter」(2003年)と名付けられた手縫いの人形様式の作品が展示されます。2024年度のターナー賞にノミネートされたル・バは、今後ますます活躍が期待される作家です。

 

ドローイングの拡張性を一貫して追究してきた鈴木ヒラクは、幼い頃から関心を抱いて来た「発掘」という行為と、「かく」表現の中に、世界に触れながら、内にあるものを引き出す(draw)という根源的な営みを見出し、さらにその実践を通じて「相互発掘」という概念を創出するに至りました。鈴木の描く線は、内なる記号や動きの軌跡を可視化し、さらに時間や空間において何かと何かを接続するチューブ、開かれた管状の線であろうとすることで、世界の複雑さに呼応する試みです。本展では、作家がたびたび言及する洞窟壁画、その闇と光のコントラストや音の響きから着想を得たドローイング作品、および考古学的遺物の写真をシルバーで塗り消し、架空の記憶を描き出す数点の小品が展示されます。

 

鈴木が自身のドローイングを、「即興の身振りによって生まれた記号の断片によって、長いテキストを書くような試み」と語る一方、ル・バは自らの人生そのものをひとつの膨大な表現として捉え、小林は徹底したリサーチを軸に埋もれて来た声や記憶を紡いでいます。物語を織り上げる行為にも連なる三者の実践は、見えないものを掘り起こし、それらを読み解く旅路へと鑑賞者を誘いながら、複雑さを増す世界への解釈を更新し続けています。

 

ロマ※中東欧を主として世界各地に居住する民族グループ。英語の「ジプシー」など、欧州を中心に様々な呼称が使われているが、近年は差別的ニュアンスが含まれているとされ、ロマの呼称が用いられている。

Hiraku Suzuki "Casting #399", 2025
Silver spray paint on cutour from museum catalogues, 30.5 x 23.3cm