Yutaka Kikutake Galleryでは、7月11日(土)から8月8日(土)まで、同ギャラリーで初となる小林七生の個展「夜を飛ばす」を開催いたします。作家にとって2009年以来の個展となる本展のために制作された新作群を紹介します。
広い深い暗い眩しいこの空っぽ遠近世界。
穴の空いた粒状のものを縫い込んでいく。
どこまでも繰り返される作業。
私は私の手先から無数のトーラスをくぐり抜けていく。
手は言葉にするより多くのことをたぶん知っていて、
念力のようでいて螺旋の運動。
回り続ける糸の軌道は時間という純粋な広がり見せる。
太古は未来かもしれない。
やがて来る模様は粒子を縫い合わせたフラクタル。
小林七生
小林は独学で活動を始め、無数の糸や石、ビーズ、スパンコールを「縫う」時間と行為から純粋に現出する立体作品を制作してきました。本展タイトル『夜を飛ばす』は、彼女が書き溜めていた詩の一節であり、意識と無意識を往来しながら手を動かし続け、最後の一粒が結びついた時、突如として目の前に形が現れる状況をあらわしています。心理的なものや感情的なものと真逆に立ち、粒子をひたすらつなぐことに集中するというその過程は、実際には存在しない何かを知覚するための行為のようでもあります。
思考からはなれることから生まれる偶然性をもつ小林の造形には、知覚と創造力が同居し、解釈から解き放たれた心地よさ、決まりごとのない自由さ、そして、丹念に縫い留められた時を見出すことができます。「生命の構造を追体験するかのような時間」を駆け抜けた結晶は、緻密な作業の連なりであると同時に、時にドラム・パフォーマンスの一部として躍動します。本展では、個々の作品と作家自身との余白に潜んだ要素を映像やあらたな空間構成に展開することが試みられています。そこには、見えるものと見えない裏面とを統合してはじめて体験することのできる世界や存在を信じ、現象として掴み取ろうとする作家の挑戦を感じることができます。
昼と夜、光と闇、現実と非現実、存在するものと存在しないもの、見えるものと見えないもの、その境界線は私たちが考える以上に曖昧で、その時々において前者と後者の割合も変化すると考えるのが自然なのかもしれません。小林の作品は、私達がながらく共にありながら忘れかけている心の営みにも通じます。世界とつながること、感知することを手繰り寄せるように生み出された作品、それをまとい奏でる行為は、あらゆる時代、あらゆる土地で受け継がれた「祈り」の力を否応なく喚起させます。一人の作家が「存在」の地平と「存在」から零れ落ちた粒子をつなぐことで表出させた結節点をご覧ください。
小林七生(こばやし・ななを)
独学で制作を始める。「縫う」時間と行為そのものを主軸とした作品をてがけると同時に、音楽家として活動する。「FATHER」と称するプロジェクトでは、秩序と無秩序を行き来する根源的な音楽体験を目的としたライブ・パフォーマンスを中心に国内外で発表してきた。これら二つの活動は相互作用を持ち、万物の謎を読み解き続けるために往来し続けながら展開されている。現在、東京を拠点に活動。