田幡浩一、トム・ハウズ、ミヤギフトシ、本山ゆかり

鳥の歌

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六本木
2024年11月7日(木)- 12月21日(土)
11:00 - 19:00 日・月・祝 定休

Yutaka Kikutake Gallery Roppongiでは、11月7日(木)から 12月21日(土)まで、田幡浩一、ミヤギフトシ、本山ゆかり、トム・ハウズによるグループ展「鳥の歌」を開催します。

 

鳥は先史時代にさかのぼる頃から神話や芸術の中でさまざまな形で現れてきました。本展はフランスを中心とした西洋と日本の近現代文学、音楽のコンテクストにおける鳥に焦点を当てた『鳥の歌、テクストの森』(髙山花子著)から着想を得た企画です。本書ではモーリス・ブランショをはじめとする思想家が用いた鳥の形象、オリヴィエ・メシアンが「鳥のカタログ」の制作で得た鳥による人智を超えた音列、そしてアルフォンソ・リンギスが『何も共有していない者たちの共同体』の中で述べたノイズによって意識される他者性と並び、キリスト教的な神の不在の上に成り立つ近現代の日本の文学や音楽における鳥の表象が論じられています。

 

鳥が持つ都市生活において隠れた存在/飛来する突然の訪問者としての性質、生物学的な謎や歴史を備えたモチーフとしての特性、東洋、西洋の思考様式を横断した多角的な観点に着目し、4名の作家の鳥にまつわる作品を展示します。

 

田幡浩一はこれまで動的な要素を含む絵画、および絵画的制約をもって構成される映像作品をにおいて、日常にあるモチーフを丹念に観察し描き出してきました。今回ドローイングと映像を展示する《72 colour(birds)》には、同じ構図の鳥が72羽、72色の色鉛筆を一色ずつ順番に用いて描かれています。鳥がそこに「ある」ようで「ない」曖昧な存在感は、反復する筆致の中で息づくかのような動きの錯覚を引き出しています。観る者の脳内で自発的に「動き」が生じ、映像が鑑賞者の想像力と共鳴する瞬間が生まれるのです。田幡のこの手法は、日常的に見過ごされがちな微細な変化の中にも確かに存在する、移ろいへの新たな気づきを促しています。

 

本展が日本で初めての展示となるトム・ハウズは、ロンドンを拠点に活動する若手のペインターです。アウトサイダーアートやフォークアート、ダダやアールブリュットからの影響、そうした様式に真摯な態度で向き合ってきた背景が自身の絵画にも反映されているようです。フォークロアや神話の世界にも通じる素朴でありながら幻想的な風景に現れる鳩の姿には、身近な鳥の持つ得体の知れなさやユーモラスな趣が感じられます。人物の温かみのある表情とどこか不気味な要素とのバランスは、ハウズの幅広い関心に基づく複雑な作家性の現れとして作品を特徴づけています。その不条理な世界観が表されているかのようなタイトルもまた作品に物語性を与えています。

 

《By This River》は、鳥が重要な要素となる乗代雄介『旅する練習』の舞台、利根川をミヤギフトシが2023年の冬に訪れ撮影した写真作品です。ミヤギの故郷、沖縄では見ることのできない冬の閑散とした風景の中に、たくさんの白鳥たちが休んでいたといいます。合わせて展示する《River》は、雪の降らない、冬でも暖かい町から抜け出したいと歌うジョニ・ミッチェルの曲から。「I wish I had a river so long / I would teach my feet to fly」という歌詞をミヤギが黒板に書き、消した歌詞が雪のように舞う様子を映し出した作品です。ミヤギはその歌詞に、雪の降らない沖縄の小さな島で育ち広大な海を見ながら向こう側を想像していた自らの思春期を重ねました。

 

本山ゆかりは2015年より絵画を構成する要素を分解・再構築するようにして制作される「画用紙」シリーズの最新作として、《画用紙(巣)》《画用紙(5つの卵)》を発表します。「画用紙」シリーズでは、デジタルペイントツールで描かれた多量のドローイングからモチーフが選択され、透明なアクリル板に白と黒のアクリル絵具で描かれます。今回本山は高山花子氏との対話をもとに、鳥そのものの姿形は描かずに『鳥の歌、テクストの森』で述べられるような視覚的な情報を経ずに語られる鳥の存在、樹上にいるその気配を想像して描く試みとして鳥に付随するイメージを対象として用いました。

 

鳥というテーマへの4人のアーティストそれぞれの応答をぜひご高覧ください。