Yutaka Kikutake Galleryでは2月27日(土)から3月27日(土)まで、新里明士による個展「均衡と欠片」を開催します。
新里明士は、現代の陶芸を担うアーティストの一人として、2000年代初頭より国内外を問わず様々な展覧会で作品を発表してきました。長年に渡って様々な形態を取って発表を続けてきた「光器(こうき)」は,透過性の高い白磁に穴をあけ,穴に透明の釉薬を埋めて焼成した作品です。作品自体が光を帯びたかのような印象をあたえる同作は,光に透け文様が浮かび上がる様を蛍にたとえた技法「蛍手(ほたるで)」との類似性を見ることもできますが、作家が制作を続けるなかで到達した手法による代表作シリーズと言えます。
器や酒器として造形され、評価を高めてきた「光器」の制作には、極めて精度の高い技術が必要となりますが、一方ではその完成の手前で、アーティストにはコントロールできない焼成という過程を必ず踏むことが必要になります。焼成の過程で生じたヒビや割れはもちろん、その作品の繊細さゆえ、小さなキズであっても許容されることはなく、発表される作品の背景には、膨大な数の「失敗作」が存在していました。
コロナウィルスによるパンデミックの状況下、これまで以上に制作工房に滞在する時間が長くなった作家は、そうした「失敗作」が帯びる力や、破綻のなかに潜む美しさに視線がいくようになったと言います。それは早速、作品制作にも新たな指針をもたらし、キズを起点に作品制作を行うにいたりました。白磁の土を轆轤で成形、乾かした後に形を削り出す、そして生のうちに穴を穿ち、素焼きをしたあと穴に釉を埋めて本焼成―こうした一連の制作過程はこれまで同様ですが、本焼成の前に敢えてヒビを入れておくことによって、火の力で大きく裂け、器の内と外が亀裂を通して繋がるような作品が出来あるのです。
陶芸作品が含む刹那的なプロセス、それに裏付けられた瞬間的な美を半ば暴力的に開示するこうした作品は、火と土を使って造形を行うという陶芸の根の部分と、磨かれた技術が重なり合うことで生じる、新里の新たな試みです。陶器が造形された質量が持つ容積を超え出て、その繊細な表面から漏れ出る陰影が空間の潜在的な層を表情豊かに伝えてくれるようです。
また本展では、焼き物の形は継承しつつも、それらを反転させ吊るすことで完成するという新里の最新の試みも発表いたします。台に置くという陶芸作品の展示条件を離れ、空気の流れによって動くような作品は、「光器」が生み出してきた繊細な手触りと光の体験とも異なる新たな姿をもって鑑賞者に届けられます。
新里明士は、1977年千葉県生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科中退後,2001年多治見市陶磁器意匠研究所終了。主な受賞歴に2005年イタリア ファエンツァ国際陶芸展 新人賞,2008年パラミタ陶芸大賞展 大賞,国際陶磁器展美濃 審査員特別賞,2009年菊池ビエンナーレ 奨励賞,2014年MOA岡田茂吉賞 新人賞。国内の他,アメリカ,イタリア,ルーマニアなど海外でも多くの展覧会に出展し,高い評価を得ています。
2021年3月7日まで国立新美術館(東京)で開催の「DOMANI・明日2021」展でも新作を多数発表しています。是非併せてご覧ください。