Yutaka Kikutake Gallery では田幡浩一、Nerhol、村瀬恭子、楊博によるグループ展“固定される影”を11月9日から12月14日まで開催いたします。
この秋に『空蓮房―仏教と写真 谷口昌良+畠山直哉』という一冊の本が刊行されました(赤々舎刊)。Yutaka Kikutake Galleryではこの書物の編集作業を担当しましたが、仏教哲学をベースに写真に留まらず芸術、文学、哲学、そして現代社会の姿を歴史的な視野をもって考察するユニークな本書には、今、そして、これからの時代を生きる私たちにとっての貴重なヒントが数多く含まれています。
本書で取り上げられるキーワードは数多くありますが、そのなかから「影」を取り上げて、それをテーマにしたグループ展を開催したいと思います。
仏教哲学には、世界は固定した実体によって成り立っているのではなく、その時々の間接的な条件である「縁」が生起することによって織りなされるものであるという概念があります。「無常」や「空」といった言葉を取り上げると理解しやすくなるかと思いますが、本書で畠山さんが写真術の出自を踏まえながらこの概念を見事に敷衍している一節を簡約するならば、世界には固定的な実体は存在せず、実体に迫ろうとして残された影が存在しているのであり、実体という流動的なものに対して、実は固定されるのは影であるという、一般的な理解を裏返した関係が導かれていくのです。ここには、芸術の営みに極めて近い姿があると言えるでしょう。作品として残され、固定される影。作品を見て感動したり、全く異なることを考え始めるといったことも、影との出会いによって自分自身という実体めいたものが揺さぶられる経験でもあるでしょう。その影の意味も、時代や受け取られる状況によって変化を続けていくのが常です。限られた壁幅のため展示できる作品は限られますが、厳選した作品たちとともにアレやコレや考えをめぐらせていただけますと幸いです。