Yutaka Kikutake Galleryでは、日本での発表は本展が初となるロンドン在住のアーティストデュオ、ハナ・クインラン&ロジー・ヘイスティングス、および東京を拠点に活動するミヤギフトシによるグループ展を開催いたします。
セクシュアルマイノリティとしての自身のアイデンティティとの対話を軸に、歴史の影で見過ごされてきたささやかな感情の揺らぎを、写真、映像、テキスト、インスタレーションといった様々な手法で表現してきたミヤギフトシ。出身地である沖縄を舞台に、米兵と沖縄人男性との間に生まれ得た関係性をテーマに紡ぐ複合プロジェクト「American Boyfriend」シリーズは現在も進行しています。本展では、日本初公開となる「Hope We’ll See Each Other Soon Again」(2009年-2024年)を含むインスタレーションが展示されます。
手作りの「WELCOME」サインは、作家の個人的体験に基づいた、寛容さと不寛容さについての考察を巡る発展途上のピースです。沖縄を取り囲むフェンスがすべて赤い毛糸で出来ていたら、という想像のもとに制作された「Hope We’ll See Each Other Soon Again」は、はさみで簡単に穴をあけることが出来る柔らかな素材の特性が、痛みや傷、あるいは隔たりを連想させる冷たい柵のイメージとは対照的に、繋がりと受容が主役の詩的な世界観を喚起しています。「Reading Brokeback Mountain in Kadena」(2016年)と題された映像作品では、惹かれ合う二人の男性を描いた同名小説の一場面を朗読するミヤギの姿が映し出されています。朗読は、登場人物の二人が幼い頃に示唆された暴力と、その連鎖が想起される場面にさしかかり、淡々と続いていきます。本題に含まれる地名から、この作品の撮影場所が沖縄、嘉手納であることが示されています。
公共空間における権威、権力、あるいはそれらによって形成される見えない支配と服従の構造を問うハナ・クインラン&ロジー・ヘイスティングス。制作は徹底した資料アーカイブのリサーチに基づき、その形式は絵画、映像、パフォーマンス、出版、インスタレーションなど多岐にわたります。テート・ブリテンで開催された展覧会「Tulips」(2022年)では、フィレンツェのブランカッチ礼拝堂にあるフレスコ画からインスピレーションを得た架空のシーンをストリート写真のアーカイヴを用いて描き出し、公共空間におけるパワーダイナミクス、階級、権威といったテーマに迫りました。本展においては、2018年制作の映像作品「Gaby」を展示します。アーティストの親友にちなんで名付けられた本作では、ゲイ・カルチャー(その表象、政治、人間関係)と警察(その戦略と集合体)の交わりが3章形式で表現されています。
プライド・パレードでY.M.C.A.に合わせて踊る現役警察官と、それを祝福するパレード参加者のモンタージュ映像で始まり、1977年発行の雑誌『クリストファー・ストリート』を用いたアニメーションでは(白人男性の)ゲイ・コミュニティが、見捨てられた地区を若返らせ、マンハッタンを「スラム」から「救う」ことが称賛されています。最後はGabyが、18歳のときにストレートの警官と短期間交際したことについて語ります。権力とそれ以外の交歓、あるいはマイノリティのふるまいの観察を通じて出来事に介入し、鑑賞者との間に感情的で官能的なつながりを作りたいというハナ&ロジーの姿勢は、嘉手納で二人の男性についての朗読を続けるミヤギフトシの姿にもどこか重なります。
Hannah Quinlan & Rosie Hastings "Gaby" 2018, Digital video
クィア周縁のゆらぎを多様な形式ですくい取るミヤギフトシと、歴史・文化的対立の構造を非階層的な視点から再提示するハナ・クインラン&ロジー・ヘイスティングス。日英の作家による新鮮なプレゼンテーションで構成された本展にぜひお運びください。